墜ちたアイドル

 吉田修一の「逃亡小説集」を読了した。著者は、芥川賞作家であるが、純文学作品のみならず、エンターテインメント系の作品も手掛けている。本書は、「犯罪小説集」に続く傑作小説集の第2弾で、逃亡をテーマとした4篇からなる短編集である。
 「逃げろ九州男児」:逃げるのは、職を失い、年老いた母を抱えて途方に暮れる中年の男である。四十歳の福地秀明は、三十歳を過ぎて九州の故郷に帰るが、尊敬する先輩に騙されて連帯保証人になったことから、莫大な借金を背負い込んでいた。秀明はその借金を、製鉄所のパートをして返却し、今は宅配便の運転手をしている。彼の唯一の息抜きは、彼の同級生で