40、「壬生義士伝」下(浅田次郎著)は人の真の生きざま描く

「壬生義士伝下」 浅田次郎著 文芸春秋
2000年4月30日発行
ー(どうする、一君。僕がやろうか。それとも、君がやるか)
 わしは三十郎の目を盗んで沖田を睨み返した。
(俺がやるよ)
 そう言うたつもりじゃった。
 三十郎を斬りたかったのは、わしひとりではあるまい。
「天下の御役目をひとごろし呼ばわりする者は許さぬ」
「斎藤先生」
「拙者は義士ではござらぬ。堀部保兵衛ではござらぬ」
 参謀の伊東甲子太郎以下十数名の隊士。
伊東の真意がわからぬ。まして伊東は入隊以来しばしば全国を行脚し、諸藩のわけもわからぬ者たちと気脈を通じている。ことに薩摩とは近しい。