春宵にたたむ雨傘濡れ色に



 同じ橋三たび渡りぬ春の宵  夏目漱石 大正三年

  声まがふ茶の間の父子春の宵  亀井糸游

  女湯の聲の覚えや春の宵  会津八一

 また明日といふ日のあるに春の宵  長谷川回天

 ゆく春の宵にて僧が修羅を舞ふ  佐藤鬼房

 カーテンも引くべきは引き春の宵  波多野爽波 鋪道の花

 サバランに酔ふ父なりし春の宵  水原 春郎

 セルロイド人形歩け春の宵  大峯あきら

 上方の穴子押鮨春の宵  國島十雨

 児の笑顔寝顔にかはり宵の春  福田蓼汀 山火

 公達に狐化けたり宵の春  蕪村

 六区とてひとりは淋し春の宵  関口真沙