「落ちるなよ」

自転車でやって来た男性が立ち止まる。全身ずぶ濡れだ。片足をガードレールに載せ、私たちと同じ方向を見る。

「保護出来ないのかなあ」
私は独り言のようにつぶやいた。すると、男性が話し出した。

自分で自由に移動して、草を食べているし、ちゃんと飼い主がいる。名前まであるという。

「・・」
私は何度か聞き返した。「ポニョ」。アニメ「崖の上のポニョ」から取ったのだ。

あんな崖の上で落ちないのだろうか。

「動いた!」

ヤギなのだ。白いヤギが人工的な、コンクリートで覆われた崖に張り付いている。足場は10センチにも満たないとっかかりに乗せている。

「今はいま