「千曲川のスケッチ」 島崎藤村著 岩波文庫
1943年3月10日発行
ーわたしの心は詩から小説の形式を選ぶようになった。この書のおもなる土台となったものは3、4年間ばかり地方に黙していた時の印象である。
わたしがつぎつぎいに公にした「破戒」、「緑葉集」、それから「藤村集」と「家」の一部、最近の短篇なぞ。
寂しく地方に住む人たちのためにも、この書がいくらかの慰めにならばなぞとも思う。
大正元年冬 藤村
この町で養蚕をしない家は、指折るほどしかない。
「清仏戦争の後、フランス兵の用いた軍馬はわが陸軍省の手に買い取られて、海を越して渡っ