長田弘の詩 「空色の街を歩く」



  空色の街を歩く 
             長田弘 詩


空気が澄んでいる。
道の遠くまで、
あらゆるものすべてが
明確なかたちをしていて、
街の何でもない光景が、
うつくしい沈黙のように
ひろがっている。

家々の屋根の上の
どこまでも、しんとして
透き通ってゆく青磁の空が、
束の間の永遠みたいにきれいだ。
思わず、立ちつくす。

両手の指をパッとひろげる。
何もない。-
得たものでなく、
失ったものの総量が、
人の人生とよばれるものの
たぶん全部なのではないだろうか。

それがこの世の掟だと、
時を共にした人を喪って知った。
死は素なのであ