お湯に浸かった女性が、まるで旧知の知り合いのように声を掛けてきた。
「滑りますから気を付けて下さいね」
ここは傍を何度か通った事がある。だが、入ってみようとは思わなかった。あまりにもみすぼらしい。
ホテルのフロントで無料で入れると言われて行ってみるかとなった。浴衣を着て行くようにと言われたので、部屋に入ると早速着替えた。
防波堤の役目を兼ねた一段と高いコンクリート道を歩いた。寒くはない。前を浴衣姿のカップルが歩いている。居並ぶホテルにはテラス席やガラス窓の内側に程よく客がいて、皆海側を眺めている。
掘っ立て小屋のような受付には、まだ爺様とは呼べな
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