トビの聖性と零落 前編
―『日本書紀』の「造綿者」(わたつくり)とは何か―
はじめに
トビはワシタカ類ではあるが、タカやハヤブサなどにくらべるといちだん低くみられる。身近に普通にいる平凡な鳥ということもあるし、猛禽類ならたいてい勇壮な狩りをするが、トビはさっぱりで、死んだ魚や小動物をさがしては失敬していくので、どうしても見劣りがする。「とんび」と軽くあしらわれたりもする。
なかには「くそとび」などと、有難くない呼ばれ方もされてさんざんである。隠語に「ひるとび」というのがある。盗人のことである。人の油断しているすきにさっと物をかっぱらうというと
連載:トビの聖性と零落 前編 ―『日本書紀』の「造綿者」(わたつくり)とは何か―