ー室生犀星ー
「ゆうがた」
お食事の済んだあと
何気なくお庭に出て
若葉を見ていると
ふいに東京にいることが強く胸を打つ、
ここは自分の家でないこと
すぐに自分の家にもどれぬことに気がつく、
そして何処かで
誰かがうたをうたう。
ゆうがたは
人の心を誘うことが上手で
いつもわたしを困らせる。
(「東京詩集」より)
「しぐれ」
あはあはしい時雨であつた
さつと降つて
またたく間に晴れあがつて行つた
坂みちを上りながら
空はと見れば
しぐれは街のなかばに行つて
片町あたりにふつてゐた
さう