実は優しかった鬼

鬼平が逝った。

歌舞伎を見たことは無いが、中村吉右衛門は私にとって完全に鬼の平蔵そのものだ。

鬼を演じながらも配下の密偵を見つめる瞳は優しかった。

池波正太郎の作品で、最も好きなのは剣客商売だが、映像化した中では鬼平犯科帳が秀でている。絵になるのだ。

原作を凌ぐ作品に育て上げたその第一の功労者は、鬼平を演じた中村吉右衛門の力によると思う。

眼力で鬼にも仏にもなる鬼平は、同じ鬼平役を演じた誰よりも似合っていた。

中村吉右衛門の鬼平は、実は鬼では無かった。

優しい心を持った鬼と呼ばれた平蔵は、皆に惜しまれながら静かに天国へと昇って行った。

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