十三枚の名画

 深水黎一郎の「名画小説」を読了した。著者は、メフィスト賞出身のミステリー作家であるが、慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学(仏文学専攻)、パリ第12大学博士課程研究専門課程(DEA)修了という異色の経歴の持ち主で、「薀蓄」系のミステリーが得意とされている。本書は、ドミニク・アングルの「グランド・オダリスク」を初めとする十三枚の、名画、デザイン、タペストリー等をモチーフとした掌編小説集である。
 1「後宮寵姫」:足を捻挫しながらも羅浮宮(ルーブル)美術館にやってきた僕は、若い娘にフランスの滞在許可証の入った財布を掏られてしまうが、その時どこからとも