ありなしの風(2)―「かんのこ」と菜の花 

(2)「かんのこ」と菜の花

 故郷の小さな入江に「神の河」(かんのこ)と呼ばれる泉がある。泉から滾々と湧き出る水が入江に流れ込んでゆく。とりわけ、初夏から梅雨の時期は水の量もかなり多い。ところが、晩秋の頃になるとこの泉は枯れてしまう。
 これは父の仕業であった。実は、泉に隣接して市の水道施設ができていて、父はその管理を任されていた。泉の水量が少なくなる秋から冬にかけて、地域の生活水を確保するために、一時的に貯蔵タンクに水を確保するのである。それでも大晦日になると、各家庭が正月準備で多くの水を使い、水が足らなくなる。「みっがでらんど」(注1)とあちこちか