秋の日の専門店に黄楊の櫛



 風花や貝ちりばめし海女の櫛  冨田みのる

 髪に櫛とほりよき朝夏燕  鈴木真砂女

 茄子もぐや日を照りかへす櫛のみね  杉田久女

 茗荷の花忘れてしまひし櫛笄  長谷川かな女 花寂び

 鼈甲の櫛が一本囀れる  中田剛 珠樹以後

 霧こめし地下鋪に黄楊の櫛を買ふ  宮武寒々 朱卓

 小振りなる黄楊の目立てを懐中す  アロマ

 青蘆の風に手櫛の追ひつかず  大石悦子 百花

 青貝の櫛買うて出づ寒昴  文挾夫佐恵

 買初は朱のほのと入る母の櫛  村上喜代子 『雪降れ降れ』

 露けさや母の匂の木曾の櫛  林翔 和紙

 春霖の来て十三夜