連載:二人旅

「奇跡は起きる」谷川岳④53:3

「早目早目に行動した方がいいですよ。午後は雷が来ますから」
「はい」

「耳をすませてください。雷の音が遠くに聞こえます」
「はい」

私達の後にロープウェイに乗り込んで来たのは、1メートル近くもある荷物を担いだ歩荷(ボッカ)さんのような人。荷物を下ろして椅子に座ると、直ぐに私達に話し掛けて来た。乗客は3人だけだった。

「ほら、あそこに見えている一番高い所、あれがちょうど半分くらいです」

彼が指差す先には、雲の中に高い高い峰が見えている。あれで半分。
「会えたら僕は土気色の顔してますよ」

男性は私と同世代くらいに見える。一目で私達親子を素人と見抜い