さんが書いた連載二人旅の日記一覧

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「やっぱり行かなきゃダメだ」:伊豆③

一日目は雨だけでなく風も強かったが、二日目は青空と青い海。二日間とも晴れているより感動的だ。 ホテルの朝食は前日の夕食会場と同じで、今度はバイキングの自由席。運良く窓際の席が取れた。 パン好きの私はクロワッサンがめちゃくちゃ美味しかったが、柚子味のヨーグルトのようなものも、昨日の桜ブリンと同様の口当たりで絶品だった。 「何処か行きたい所ある?」 私は大室山と椿が見たい。 先ずは遊覧船乗り…

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「伊豆に行くなら西伊豆へ」:伊豆②

「着いたよ」 またもや私は助手席で熟睡していたのだ。それまでも何回も眠りに落ちては目覚めを繰り返していた。いつだって雨が降っていた。 ホテルの玄関前の雨の当たらない場所で私を降ろし、息子は車を停めに行った。 ホテルに入った。 「ワオ!」 広い、半端なく広いロビーには巨大な海が広がっていた。おまけに人が少ない。横4~50メートルはありそうな広い窓の向こうには、青い海と何処までも真っ直ぐな水平…

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「旅に出るなら三種の神器」:伊豆①

品川駅に着いた。本屋に直行だ。好きな本を好きなだけ買っていい。だが、文庫本のみだ。持ち歩きに不便だし、「読んだら捨てる本」に入るかもしれないから捨てにくくなる。 『滅びの前のシャングリラ』。凪良ゆうか、知らない作家がいいが、この帯には惹かれる。 「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」〜荒廃していく世界の中で、人生をうまく生きられなかった人びとは、最期の時までをどう過ごすのか」 これが凪…

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「始めて谷川岳の全容を見た」谷川岳③

空は昨日に引き続き晴れ渡っている。ホテルの窓一面に見える山はまだ緑が強い。 谷川岳ロープウェイ乗り場の立体駐車場まで全く渋滞なしで拍子抜けしたが、トレッキングコースにも人はいなかった。 毎年泊まるホテル松乃井には早目に着いたと思ったが、夕食は七時半からの第二陣になる程客がいた。 「始めてじゃない?二日間とも晴れるなんて」 谷川岳トレッキングは三度目だ。昨日インフォメーショ…

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「登ってもいないのにTシャツを買った」谷川岳②

息子は半袖一枚だった。私も随分婆さんになったものだ。 私はヒートテックの下着の上に長袖、冬用ジャケット着ていた。それでも腰の辺りがスースー寒い感じがして冬用タイツを穿こうかと思ったほどだが、さすがにそれはやめて首にしっかりスカーフを巻いていた。 首を温めると喉にいい気もした。数日前から咳が出る。幸い品川駅まで咳は出なかった。 いつも早目に家を出てここで買い物するのだが、私は時間…

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「防寒着を詰め込んだ」谷川岳①

テレビは録画して見るが、新しいドラマに目ぼしいものはなく、結局「山」になる。 ヨーロッパアルプスの美しさは何度見ても飽きないし、穂高連峰も堪らなくなる。私は山に登らなくてもあの荒涼とした切り立った岩肌が見たいのだ。 今年は行けそうにないと思うと無性に行きたい。 谷川岳は娘一家のピンチで先日キャンセルしたが、娘の体調は大分よくなった。万全になるのを待ってはいられないし、自分の体調…

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「『毎年登りたい山』にはランクインしない大山」

「キツいなあ、この階段、ほらあれ、草津に行く時通る階段で有名な温泉、あそこの倍以上あるよ」 「諦めるな、思い出せ」 暑かった。背中にジリジリ真夏の太陽が照り付ける。9月も半ばに近づいているというのに30度を軽く越えているだろう。後で分かったが息子もこの時かなりバテていた。 私は珍しく日曜日に自宅にいた。朝起きて「ヨーロッパの山小屋めぐり」を見、「にっぽん百名山スペシャル 秋の穂高」…

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「キャンセル保険」:伊勢神宮&石和温泉③

「キャンセルが出て大変じゃないてすか」 「いえ、それが逆でこざいまして、今日も予約が入りました」 フロントのホテルマンから思いがけない答えが返って来た。台風7号は当初関東直撃と言われていたから、キャンセルが続出したのではないかと思った。 「1万円も安くなってるよ」 台風の情報が流れてからホテルの料金がダウンしたと息子が言った。金峰山の登山口は2300㍍もある大弛峠だが、そこに…

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「迎合しない!」伊勢神宮&石和温泉②

広大な伊勢神宮を歩いているとトイレに行きたくなる。 「これじゃあ外国人はトイレだって分からないよね」 「迎合しないんだよ」 表示には英語も中国語も「WC」も書いてない。 「順路を示す矢印くらいあればいいのに」 「迎合しない(笑)!」 全てがこの一言で片付いた。 この言葉は朝粥を頂く為に並んだお店から始まった。 「待ち時間は何分とかもうちょっと親切にしてもいいのに」…

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「クレイジージャーニー」:伊勢神宮&石和温泉①

「また来たよ」 「ええっ?!また来た!」 車が次々入って来る。腕時計を見る。間違いない、まだ朝の5時だ。 「クレイジーなのは私達だけじゃないね」 「隣の車、お母さんと娘が降りたよ。お父さんは運転席にいる」 「寝ずに運転して来て疲れてんだよ」 傘を差して歩いて行く二人。私達も降りた。 「岐阜、湘南、多摩、和泉、全国から来てるよ」 「観光客で混む前に、地元の人がお参りに来…

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「モデル:上高地④」

息子が指差す先を見た。あの人だ。 明神池に出発する前、河童橋でソフトクリームを食べた。店先のパラソル付きテーブルが空いていた。私達はそこに座り、穂高連峰や河童橋を眺めていた。 一人の婆様が目の前を通った。目で追いかけた。腰が曲がり、杖を突いているが、完全装備の登山姿。かなり太っている。 梓川の上流に向っていた。はっきり目的地のある歩き方だった。一人だ。 「カッコいい」 …

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「河童橋から上流がいい:上高地③」

河童橋から上流ですれ違う人は殆どが外国人。道は平坦ではなく、結構アップダウンがある。 穂高連峰の見える角度が変わって行く。 山は急峻で、心が震えるような、力強さがある。自分があそこに登れるとは思えないが、簡単には人を寄せ付けない厳しい美しさがあり、それだけに惹きつけられる。 「昔来た時より山が近くて大きく感じる。昔は山になんて興味なかったからかな」 「それも心理学用語があるか…

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「上高地は野生動物の王国になっていた:上高地②」

「まただ!これじゃあ、上高地の思い出が猿の○だけになっちゃうよ」 遊歩道にはしょっちゅう猿の排泄物が落ちていて、景色に見惚れていると踏んづけてしまう。 上高地は自家用車では行けない。『沢渡バスターミナル』から乗ったバスは普通の大型観光バスで、乗ったのは12人。皆普通の服装だ。 出発してから直ぐに松本電鉄の駅に大変な数のバスが停まっていて驚いた。乗客は後から乗って来た人がいて…

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「2週連続の贅沢三昧白骨温泉:上高地①」

トランクを開けようと車の後ろに行った。降りてからずっと川の音がしていた。手摺の下を覗き込んだ。 ゾワゾワっ。下は断崖絶壁、思った以上に高さがある。駐車場が川の上に張り出している。 作務衣を着た男性が挨拶して来る。目を上げると杖を突いた爺様が急な勾配をゆっくり登って行く。 「ここにボケた人はいないね」 「ボケてたら生きていけない」 山が直ぐ後ろに迫る古い木造の旅館。看板には『…

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「こんな偶然てある?:国師岳②」

振り向くと人がいた。 曖昧に笑った。私は岩陰で着替えたところだった。 「大丈夫です」 相手の若い女の子も笑っている。中年の男性一人に若い娘二人。3人とも同じ上着を着ている。 「ただモンじゃなかったんですね、環境省なんですね」 私は着替えを見られたかもしれない照れ隠しかよく喋った。 「私達ついこの間、大菩薩嶺に登ったんですけど、その時も環境省の方に会ったんです」 …

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「一日目は昇仙峡:国師岳①」

全身黄金色の錦鯉が透き通った水に泳いでいる。これを見たら忘れるはずがない。 「前も来たけどロープウェイに乗るのは初めてだよね」 ここに来て漸く口にするオカン。ロープウェイには乗った記憶がなかったが、もし乗った事を忘れていたら、それを息子に気取られたくない。 「初めてだよ」 乗り場までの階段が長い。 「こんな所で音を上げてたら、明日どうすんだ?」 乗り込むと信じられ…

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「贅沢は続く」:大菩薩嶺③

「ピーポーピーポー」 救急車の音なんて毎日聞いている。気にも留めなかった。だんだん大きくなる。救急車?ここに? 私達は百名山の一つ「大菩薩嶺」への登山口「上日川峠」に着いたところだった。 「来たよ!見に行く」 私は急いでリュックを背負った。こんな事で息子は動じない。 「登ってくよ、ほら見て!」 救急車は登山道に併走している車も通れる道をゆっくり登り始めた。こんな深い山には…

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「五つ星ホテル慶雲館」:大菩薩嶺②

「今食べた中で一品だけもう一度出しますよって言われたら何にする?」 「肉」 間髪入れずに息子は答えた。私もそう言った。自分で焼く甲州牛は、厚みも柔らかさも脂の入り具合も絶妙だった。 食事処は畳敷きにテーブルを置いた客室で、客は私達の一組だけ。窓の外には早川の源流がそれはそれは見事に流れている。澱みなどあるはずもなく、激流と言う程の険しさもなく、波頭の白と背景の新緑が絵画以上に美しい。 …

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「温泉に浸かり日の出を見た」:伊豆③

夕食後布団に入ったらもう大浴場に行く気になれずそのまま寝たから真夜中に目が覚めた。波の音がうるさい程近い。 6時まで待って大浴場に行った。すると直ぐにも朝日が登って来そうなオレンジ色に染まった空が目の前に。 2~3年続けて初日の出を見ようと九十九里まで出掛けて行った事があるが、ちょうど太陽が登る辺りに必ず雲が出来、一度も見た事がなかった。 それが思いがけなく見られた。私にとって…

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「出掛ける時は雨が多い」:伊豆②

「バカだよねぇ」 風に傘を飛ばされそうになりながら笑って言う。 「伊豆はいつも雨だね」 洒落でも何でもなく出掛ける時に天気に恵まれない事が多い。 城ヶ島の吊橋は雨と風でちょっと怖く感じたが、それでも垂直の断崖に波が打ち付ける光景は日常を離れた感覚にしてくれた。 「水が澄んでるねえ」 「あそこに、船越英一郎が立っていそうだよ」 「幕張の海とは全く違うね」 観光バスで来た…