時代小説

「宵待ち銀次・江戸草子」
             なからい悠
 
(鬢つけ油)
銀次らの岡っ引きには、奉行所内にある鍛錬所で十手術の手ほどきが定期的に行われて居たが、中でも銀次は鎖分銅と投げ釘の名手で評判を取っていた男だった。
銀次の持つ十手には十尺の細くて頑丈な鎖に卵ほどの分銅が着いている。そして、五寸ほどの頭の無い釘が十本、 皮袋に入れて常に懐に入れて有る。
銀次ら岡っ引きは正式に奉行所からの給金は出ないが、上役である同心からの手当てが僅かに配られている。当然、副業と言うか本業と言うか、女房の厄介にならないと飯は食え無いのである。