「捕物」の日記一覧

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時代小説

「宵待ち銀次・江戸草子」              なからい悠   (百舌鳥の早贄) その日は、天高く馬肥ゆるが似つかしい昼下がりであった。 銀次は下っ引きの米助を連れて本所の武家屋敷あたりを歩いていると、武家の腰元と女中と見受けられる二人が、何やら正体不明の侍二人に連れ去られ様として居るところに出くわした。 銀次は通る声で、 「おい!手めえら、何?やってンだ」 男達は、その声…

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「宵待ち銀次・江戸草子」              なからい悠   (流れ星) 九月も終わり頃になり、江戸の町はめっきり秋らしく寒くなって来た。 銀次はひとり呟く様に  「まだ、綿入れは早いしな・・」 こんな晩は早く戻って熱燗が一番だ、と、思いながら歩いて居ると、向こうから若い男が息を切った様に走って来る。 様子を見ていると、どうやら追われて居るらしい。その内、浪人者が二人現…

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「宵待ち銀次・江戸草子」        なからい悠 (鋳かけ屋・その1) 銀次が町の衆から、なぜ?宵待ちの親分と呼ばれる様になったか、本人は勿論知る由も無いのだが、 ひと伝えで聞いて居るのは、お久を嫁に貰った当初のことだ、お久が髪結いの店へ通いで働いて居た頃に遡る。 その頃は銀次も下っ引きから、ようやくに同心・岡崎佐内の下で岡っ引きになったばかりの頃、町の衆はどう?呼ぼうか思案をして…

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「宵待ち銀次・江戸草子」              なからい悠   (鬢つけ油) 銀次らの岡っ引きには、奉行所内にある鍛錬所で十手術の手ほどきが定期的に行われて居たが、中でも銀次は鎖分銅と投げ釘の名手で評判を取っていた男だった。 銀次の持つ十手には十尺の細くて頑丈な鎖に卵ほどの分銅が着いている。そして、五寸ほどの頭の無い釘が十本、 皮袋に入れて常に懐に入れて有る。 銀次ら岡っ引きは正…

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「宵待ち銀次・江戸草子」              なからい悠   (はしり雨) 深川柳川町の外れに「めし屋、菊」と赤塗りの提灯が吊るされて居た。この通りは岡場所からそうも離れて居なく、やくざ者や寄せ場帰りの無頼な輩が大手を振って歩くので、地元の町の衆は眉を顰めていたのである 御用聞きは、岡っ引きや地回りと呼ばれ十手持ちを指す言葉だが、中にはごろつきまがいの者も少なく無いのも事実のこと…

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「宵待ち銀次・江戸草子」              なからい悠   (かたりのお蝶) 江戸時代も後期、徳川幕府十一代将軍・家斉の時代の頃のことである。 天保二年八月、場所は神田佐久間町この辺りは商家が多く、江戸市中の中でも商いが栄えて居るところで知られて居た その界隈で近頃のことだが 奇妙な事件が相次いで起きて居たのである。大通りに面した老舗のお店(おたな)から、佐久間町の番屋へ届…