国家権力の象徴

 小川哲の「地図と拳」を読了した。著者はSF、ミステリー作家であり、2015年「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞して作家デビューしている。本書は2022年第168回直木賞、第13回山田風太郎賞受賞作であり、日露戦争前夜から第二次大戦までの満州の架空の都市の歴史を綴った群像劇で、歴史改変SFの変形と捉えることが出来る。
 物語は1989年の夏に日本帝國陸軍の高木大尉がハバロフスクからアムール川を遡ってハルビンに向かう場面から始まる。彼は茶商人に扮して満州に潜入し、ロシア軍が鉄道を建設している満州の状況を調べ、ロシア軍の開