愛らしい「執着」

(小説家・片瀬チヲル「無防備な傘」 文芸春秋社「文学界」 '23年2月号より )

雨の日に、あるクリニックを訪れた。
そこは(人通りの少ない)雑居ビルの中にあって、受付の近くに「傘立て」が置いてある。既に何本かのビニール傘が無秩序に詰め込まれていて、よく見える位置にこんな張り紙が・・「傘の取り違えがあっても、当クリニックは一切関知しません」。

私は、(診療中の取り違えや盗難が気になったので)
傘を持ったまま受付に向かおうとすると、(やっぱり)
「傘は、傘立てに入れて下さい」と、受付嬢の優しい声が

私  「傘の盗難が心配なんですが・