七十二年間の時を経て

 覆面冠者の「八角関係」を読了した。著者は匿名のミステリー作家であり、その詳細は不明である。本書は1951年に雑誌に掲載された作品を、72年振りの2023年に単行本として刊行したものであり、四家族が住む広大な西洋館で起こった連続密室殺人事件を描いたミステリーである。
 物語の舞台は河内家の三兄弟が暮らしている広大な赤煉瓦造りの西洋館である。秀夫、信義および俊作の三兄弟は、亡父の遺した相当額の遺産を三等分し、それを投資に回して悠々自適の暮らしをしている、いわゆる高等遊民である。三十五歳で長男の秀夫は、知人に借金を依頼されると断れないお人好しであり、頭もあ