解かれなかった願かけ

 北沢陶の「をんごく」を読了した。著者は小説家で、本書により2023年第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の大賞、読者賞およびこの年から創設されたカクヨム賞の三冠を受賞して作家デビューしている。本書は、愛妻の死を受け入れられない画家が遭遇した怪異を描いたホラーである。
 物語の舞台は大正十三年の大阪の船場である。物語は平野町主人公で画家の古瀬壮一郎が、四天王寺に住む口寄せ巫女の家を訊ねるところから始まる。彼が巫女の許を訪れるには訳があった。彼は船場で雇人男女合わせて三十人という大店の呉服屋の長男として生まれている。当時の船場では長男が必ずしも店を継がず