寡作の怪奇幻想小説作家
小田雅久仁の「禍」を読了した。著者はファンタジー、SF畑の小説家であり、2009年、「増大派に告ぐ」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビューしている。本書は怪奇幻想小説の短編集である。 「食書」:本編の語り手はお腹の弱い小説家である。ショッピングモールの書店で便意を催した彼は、書店のすぐ横の鍵の掛かっていなかった便所に飛び込むが、そこには中年の小太りな女性の先客がいた。その…
小田雅久仁の「禍」を読了した。著者はファンタジー、SF畑の小説家であり、2009年、「増大派に告ぐ」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビューしている。本書は怪奇幻想小説の短編集である。 「食書」:本編の語り手はお腹の弱い小説家である。ショッピングモールの書店で便意を催した彼は、書店のすぐ横の鍵の掛かっていなかった便所に飛び込むが、そこには中年の小太りな女性の先客がいた。その…
饗庭淵の「対怪異アンドロイド開発研究室」を読了した。著者はゲームクリエイター、イラストレーターであり、オリジナルゲーム「黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない」のノベライズ版で作家としてもデビューしている。本書は第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した、近未来SF風のホラーである。なお、本書は七章から構成されており、各章の終わりに「対怪異アンドロイド開発研究室」と題された、その章…
マネル・ロウレイロの「生贄の門」を読了した。著者はスペイン在住の弁護士、ホラー系ミステリー作家である。本書は、スペインのガリシア地方の山の頂にある、紀元前に建造されたケルト民族の巨石建造物で起こった猟奇事件を描いた、スパニッシュ・フォークホラーである。なお、本書は主として治安警備隊捜査官のラケル・コリーナの視点で語られる。 物語の舞台はスペイン北西部のガリシア州、セイショ山系のビアスコンであ…
北沢陶の「をんごく」を読了した。著者は小説家で、本書により2023年第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の大賞、読者賞およびこの年から創設されたカクヨム賞の三冠を受賞して作家デビューしている。本書は、愛妻の死を受け入れられない画家が遭遇した怪異を描いたホラーである。 物語の舞台は大正十三年の大阪の船場である。物語は平野町主人公で画家の古瀬壮一郎が、四天王寺に住む口寄せ巫女の家を訊ねるところ…
ユン・ゴウンの「夜間旅行者」を読了した。著者は韓国在住の小説家である。本書は2021年のCWA(英国推理作家協会)賞トランスレーション・ダガー(最優秀翻訳小説賞)受賞作で、被災地を訪れるダークツーリズムの闇を描いたホラーである。 主人公のコ・ヨナは旅行会社「ジャングル」で三十代初めの女性課長であり、首席トラベルプログラマーでもある。ジャングルは災害ツアーを主力製品としており、彼女はそれまで…
似鳥鶏の「唐木田探偵社の物理的対応」を読了した。著者は本格派のミステリー作家である。本書は、都市伝説が実体となった怪異退治に命懸けで挑む、探偵社メンバーの活躍を描いたアクション系ホラーである。 本書の語り手は十九歳の大学生の「僕」である。ある夜彼は、空に異様な月が昇っていることに気付く。その月は濃淡まだらの茶褐色で、不自然に大きくて汚い。しかも僕は、空を飛んでいる飛行機がその月の後を通り過…
三上延の「百鬼園事件帖」を読了した。著者は、ホラー系統のライトノベル出身の作家であるが、ビブリア古書堂の事件手帖シリーズでブレークしている。本書はノンシリーズの作品で、大学教授の内田百間(百閒)の周囲で起こる不思議な現象を、学生の甘木の視点で描いた、一種のホラー小説の連作短編集である。なお、タイトルにある百鬼園とは、内田百閒の別号である。なお、本書が描く時代には、百閒は百間と号しており、百閒と…
澤村伊智の「一寸先の闇-澤村伊智怪談掌編集-」を読了した。著者はホラー、ミステリー作家であり、「ぼぎわん」で2015年第22回日本ホラー小説大賞大賞を受賞し、同書を改題した「ぼぎわんが、来る」て作家デビューしている。本書は、二十一篇の掌編を収録した、ホラーの掌編集である。 「名所」:六ページの掌編。自殺の名所となった、とある団地の十三階と十四階の間の階段の踊り場の話。 「みぞ」:四ペー…
貴志祐介の「梅雨物語」を読了した。著者はホラー、ミステリー、SFをテリトリーとする作家であり、1996年に「ISOLA」でに日本ホラー小説大賞第3回長編賞佳作を受賞し、同作を改題した「十三番目の人格ISOLA」で、作家デビューしている。本書は、ノンジャンルのホラーの中編集である。 「皐月闇」:梅雨の日の夕方、作田慮男の家を若い女性が訪れる。還暦を過ぎた作田は認知症を発病しているが、その女性…
知念実希人の「ヨモツイクサ」を読了した。著者はミステリー作家で、「誰がための刃」で2011年第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞して作家デビューしているが、現役の医師でもある。本書は、アイヌから禁忌とされた森に生息する異形の存在の脅威を描いたバイオ・ホラーである。 北海道の美瑛町の山奥には、古くからアイヌが足を踏み入れてはならぬと言い伝えてきた、禁域の「黄泉の森」がある。明治時代…
澤村伊智の「さえづちの眼」を読了した。著者はホラー作家、ミステリー作家であり、「ぼぎわん」で2015年第22回日本ホラー小説大賞大賞を受賞し、同書を改題した「ぼぎわんが、来る」て作家デビューしている。本書は、同書に始まる「比嘉姉妹」シリーズの第七作であり、表題作を初めとする三篇を収録した中篇集である。 「母と」:塩海琢海は貧しい家庭に生まれ、両親を嫌っていた。琢海は中学校にほとんど行かず、…
カトリオナ・ウォードの「ニードレス通りの果ての家」を読了した。著者はイギリス在住の幻想文学者であり、アメリカ生まれであるが、家族とともに世界中を転々とし、オックスフォード大学を卒業した後は一時期アメリカに戻ったが、現在はイギリスに住んでいる様である。本書は著者の第三長編で、英国幻想文学大賞最優秀長篇賞(オーガスト・ダーレス賞)受賞作であり、少女誘拐犯と目された年齢不詳の男の心の中を描いたサイコ…