『万葉集』を訓(よ)む(その二千六十九)

 今回は、一七〇二番歌を訓む。本歌は「弓削皇子(ゆげのみこ)に獻(たてまつ)る歌(うた)」の二首目。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  妹當 茂苅音 
  夕霧 来鳴而過去 
  及乏

 一句「妹當」は「妹(いも)があたり」と訓む。この句は、一二一一番歌一句と同句。「妹」は下に連体助詞「が」を補読して「妹(いも)が」と訓む。「妹(いも)」は「男性から結婚の対象となる女性、または、結婚をした相手の女性をさす称。恋人。妻。」をいう。「當」は「当」の旧字で、ここは「辺り」の意の「あたり」を表わすための借訓字。
 二句「茂苅音」は「茂(しげ)きかり[