『殺意』②

しばらく姿を見せなかった 佐多が 小夜子の
マンションに転げこんできたのは 四月なかばの
風の強い夜であった。

もう とっくに十二時をまわっていたろう。

「どうしたの 今ごろ?」

男は立っているのさえ やっとのように ふらふらに
なり息もあがっている。

容易に 口も開かなかったが、

「逃げてきた…」

とボソリと言った。

「いったい どうしたの?」

「人が死んだかもしれない…」

言ったなりで 彼はまだ立っていた。

小夜子は 起き上がると 佐多の背後の扉が開いている
のを閉め 錠をかけた。

ついで 男の外套の襟をつかんだ。

そうして自