『おとなスタイル』は、50代からの明日が、ちょっと楽しくなる!おとなのためのライフスタイルマガジンです。 5月25日発売の夏号の特集は、「50代からは自由に生き、楽しく働き。」です。 「小池百合子インタビュー」では、働くおとなの女性を都知事が激励。ほかにも「今が一番幸せです。74歳の新入社員物語」、「ないならつくろう、私が働きたい場所」、人気バラエティ番組『マツコの知らない世界」』制作者が語る「好きの極め方」、元フジテレビアナウンサーの八木亜希子さん、元朝日新聞論説委員のアフロ記者・稲垣えみ子さんインタビューなど32ページ!

その他の特集は、夏の空気をいっぱいに感じられる「人気ガラス作家おおやぶみよの沖縄暮らし」、「石原左知子のマンションリフォーム物語」、自分と親のための「50代の認知症入門」、誰も教えてくれなかった「50歳からの水着選び・常識と非常識」、まぶたが下がるおとなの悩みに応える「目力改善BOOK」、「ミニマリスト、ドミニック・ローホーの、読むバッグ選び」指南など。多彩な特集をお楽しみください。電子書店でもご購入いただけます。

大人の悩みに答えます

今回『おとなスタイル』公式コミュニティでワインについての疑問を募集し、多数の質問をいただきました。その中からこれはみなさんも「それ、わかっていなかった」と思っているはず!と思う疑問をピックアップし、回答を掲載いたします。
今回の回答者はワイン・ジャーナリストの浮田泰幸さん。

Q
コルクよりもスクリューキャップのほうが優れていると思いますが、いまいち普及していないのはなぜでしょう?
A
確かにスクリューキャップは気密性に優れ、ワインを健全な状態のまま長く寝かせることができます。天然材から作られるコルクには雑菌が付着していることがあり、数パーセントの割合で「コルク臭」という劣化状態をワインにもたらすリスクがあります。レストランのソムリエがサーヴィスの際にまずチェックしなくてはならないのも、このコルク臭の有無です。
スクリューキャップの場合、その心配はありません。例えば、オーストラリアのワインはほとんどがスクリューキャップで閉じられています。じつはヨーロッパ諸国でもスクリューキャップはその割合を年々伸ばしているのですが、市場によっては「コルク信仰」が根強いところがあり、じつは日本がその代表格なのです。コルク栓にオープナーのスクリューをねじ込み、優雅に抜栓する、そういうスタイルがワインを特別な飲み物にしているのでしょう。ワイナリーによっては、日本向けのものだけ、コルク栓にしているところもあるんですよ。
以前私は、コルクとスクリューキャップでそれぞれに密封された、まったく同じワインを瓶詰めから10年以上経った状態で飲み比べたことがあります。スクリューキャップのほうは造りたてのように若々しかったのに対して、コルクのほうはほどよい熟成感が出ていました。こうなると、どちらが良いということではなく、どのような状態でワインを飲みたいかによって評価が分かれることになりますよね。 

Q
出来の良いワインの産地がどんどん緯度の高いほうへ移っているように思いますが、今の銘醸地は今後どうなっていくのでしょう?
A
よくワインに親しんでいらっしゃる方のご質問だと思います。地球温暖化の影響は20年くらい前から世界中のワイン産地でも問題になっています。ワインは用いられるブドウ品種の寒冷限界で栽培されるときに最高の味わいになると言われています。
例えばシャルドネを使った白ワイン(スパークリング含む)の最高傑作ができる産地はブルゴーニュ、シャンパーニュなど、いずれもこの品種が生育することのできるギリギリの冷涼地です。気温の上昇から逃れるには2つの方法があります。緯度の高い地方(北半球の場合は北)へ移るか、標高の高い土地に移るか。実際、多くのワイナリーが温暖化から逃れようとして山の斜面の上へ上へと畑を開いています。また、これまでワイン造りとはあまり縁のなかったイギリス南部からシャンパーニュを凌ぐ良質なスパークリングワインが生まれています。イタリア・シチリアのエトナ山のように標高1000メートルにも 達する高標高産地に進出する造り手もどんどん出てきています。また、ドイツはもともと冷涼な土地で、リースリングなどの寒さに強い品種のブドウからワインを造ってきましたが、近年は、シラーなど本来はもっと南の土地で育てられていた多くの品種が栽培されるようになっています。一方でボルドーなどの銘醸地では、夏場ブドウの葉をわざと多く残すなどして、果実が熟しすぎるのを避けたり、環境に害のない物質を使って葉にサンスクリーンを施したりして対策を図っています。温暖化は気温の上昇だけでなく、気候の激化を世界中で起こしています。過去10年くらいの間にヨーロッパ各地では雹による深刻な被害が何度も生じています。自然との戦いに人間が勝利することができるかどうかは誰にもわかりません。が、ワインを愛する人がいるかぎり、生産者は克服の努力を続けることでしょう。


Q
ボジョレー・ヌーボーが解禁というニュースがあるとつい買って飲んでしまうのですが、ワインの味音痴の私でさえ、通常のワインとは違うのはわかります。そもそもボジョレーとは何なんでしょうか?
A
ボジョレーはフランス・ブルゴーニュの南に位置するワイン産地で、ガメイという品種による赤ワインで知られています。ヌーボーは収穫後すぐに醸造・瓶詰めされる早飲み用の特殊なワイン。軽快で飲みやすく、花やバナナの香りがするのが特徴です。ボジョレー以外の土地にも新酒を楽しむ風習はありますが、ボジョレー地区にはもともと17世紀の昔から早飲みのワインを楽しむ習慣があり、20世紀半ばにはフランス政府が「解禁日」を公認するなどの動きも手伝って、ボジョレー=ヌーボーというイメージが定着したのです。ボジョレー・ヌーボーは炭酸ガス浸潤法(マセラシオン・カルボニック)という独特の製法で造られます。これによって、しっかりとした色合いで、酸味や渋味の少ない、フレッシュなワインが出来上がるのです。一方、ボジョレーでは同じガメイを用いてヌーボーでないワインも造られています。最高位にあるクリュ・ボジョレー(域内でも特に優れたワインを生産する10地区に与えられた名称、ラベルには、「モルゴン」「ムーラン・ナ・ヴァン」などの地名が記載されている)には、長期熟成にも耐え、奥深い味わいの、すばらしいワインがあります。ちなみに、ヌーボーは早飲み用の製法でできているので、熟成には適さないと一般に言われていますが、飲み損ねたヌーボーを1年後、2年後に恐る恐る開けてみたら、見事に熟成していたという話もしばしば耳にします。昨今はヌーボー全体のクオリティが向上しているので、こういった嬉しい誤算は今後ますます増えていくのではないでしょうか。

今回の質問は『おとなスタイル』公式コミュニティにて募集しました。今後も様々な企画を公式コミュニティを通じて行っていきますのでお楽しみに。
今回特集させていただいた眼鏡の相談や『おとなスタイル』本誌についての感想など、是非コミュニティに参加し、仲間同士で交流してみてください。

column
コラム

どこで本来の道を外れてしまったのか、日本には「ワイン=高級な飲み物」という誤ったイメージが染み付いているようです。確かに世界には1本200万円もするワインも存在します。そこまで極端でなくても、よほどのお祝いごとでもなければ手を出すことのできない高価なワインはたくさんあります。しかし、それはあくまでもワインという飲み物の一端でしかありません。圧倒的大多数のワインは、手頃な価格で買えて、気軽に楽しむことのできるデイリーな飲み物。パリでもミラノでもニューヨークでも、人々は日々の暮らしのなかでリズナブルなワインをリラックスして楽しんでいます。私は、ワインを、「お金や知識がないと楽しめない高値の花的存在」から解放したいとつねに願っています。ワインの民主化ということですね。ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュには有名で品質も高いワインがたくさんあります。しかし、おいしいワイン、語るべきもののあるワインは、世界中で造られています。ワインジャーナリズムの世界で最近、注目されている産地をいくつか挙げておきましょう。

・ニューヨーク(ニューヨークシティを含む州全体から高品質でパッケージもおしゃれなワインがたくさん登場)
・ヴィーニョ・ヴェルデ(ポルトガル北部のミーニョ地方で造られる軽めのワイン。微発泡であることも)
・ギリシャ(土着の品種によるユニークな味わい。海の影響を受けた「島のワイン」)
・ドイツ(造り手の世代交代によって、伝統を覆すスタイルのワインがどんどん生まれている。白だけでなく、赤にも逸品が!)

おいしいワインと出会う秘訣は、既成概念を捨てて、心を開くこと。グラスや道具、保管の仕方や飲み方を学ぶのはまだまだ先でいいでしょう。まずは見知らぬ土地を旅するように、いろいろなワインを開けてみることから始めてみてください。飲み残したら、また栓をして、翌日のお楽しみにすればいいのです。開栓後2日目、3日目のほうが味わいが増すというのはよくあること。そういうワインと出会うと、あらためてワインって生き物なんだなと思うことでしょう。

文/ワイン・ジャーナリスト 浮田泰幸