「青山文平」の日記一覧

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偃武の時代

 青山文平の「遠縁の女」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、武力が最早意味をなさなくなった時代の武家の男女の生き方を描いた、時代小説の短編集である。  「機織る武家」:縫は僅か二十俵二人扶持の武井家に後妻として嫁入りしたが、夫の武井由人も入り婿である。家付き娘の前妻の和は、産褥で子供とともに亡くなっている。武…

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青山文平の「遠縁の女」。

★3.5 中編3つ。 この作者、読んでいて新鮮さを感じるのはなぜなのだろう。物語の背景の中に新しい視点が織り込まれているからなのかな。 「機織る武家」では武家の間にも入り込む商業資本を妻女の賃機で。 「沼尻新田」では知行取りと蔵米取りの違いについて、新田の領主は裁判権を持つという話。 「遠縁の女」では、竹刀剣法と木刀剣法の違いを詳述している。 いずれも小藩での物語の中で語られるのだが、他の…

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帰農した武士達

 青山文平の「励み場」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書では、名子(なご)出身で、真の武家を目指す一人の男の生き方が描かれる。「名子」とは、江戸時代以前に領主であった武家が、武家の身分よりも領地を選択して百姓になった時に、それに付き随って百姓になったかつての家臣であり、場合によっては小作百姓よりも低く見られてい…

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青山文平の「励み場」。

★3.7 戦国期に地侍だった者が刀を捨て、名主という形で重きをなしている本田村(新田開発によってできた新田村に対し、昔からある村をいう)は、江戸の宝暦期(1758年)になっても残っている。 地侍に家来として仕えていた家の者は、今も名子として名主に仕えてはいるが、土地を持たないがために小前さらには小作農よりも下に見られている。 そんな名子であった信郎は、18歳で幕府代官所で書き役の席を得るや、…

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御家人の身上り

青山文平の「半席」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、短編集「約定」所収の表題作を連作化した時代小説の短編集であり、表題作は再録である。本書の主人公の片岡直人は徒目付であるが、父親の直十郎が御目見の小十人に就いており、直人が再度御目見職に就けば、片岡家は御家人から旗本に身上りできるが、今のままでは一代御目見の…

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青山文平の「約定」。

★3.7 武家もの6つの短編。 「三筋界隈」は行き倒れの浪人を介抱したがその男が礼として残したものは名声という配慮。 「半席」は次の連作短編集に繋がる「永々御目見以上」を願う徒目付の男の裏の仕事。 「春山入り」は昔の剣友に思わぬ宴で打ち明けられた武士を捨てるということ。 「乳房」は夫の本当の心情を知った妻の後悔とやり直しの心。 「約定」は約した3年後の果し合いを忘れてしまった男。 「…

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青山文平の「半席」。

★3.8 6つの連作短編の物語。 片岡直人は徒目付である。組頭・内藤雅之から表の御用以外の頼まれ御用(裏の仕事)が回される。 その分臨時収入も入り魅力的なものではあるが、徒目付は御目見職ではない。 親子2代で御目見職に就けば永々御目見以上の扱いとなる。父親が小十人(御目見職)であったから直人が勘定(御目見職)になれば永々御目見以上となれる。今の片岡家は「半席」の状態である。 頼まれ御用は…

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煮売り屋の娘達

青山文平の「つまをめとらば」を読了した。著者は出版社勤務、フリーライターを経て、2011年に「白樫の樹の下で」で松本清張賞を受賞し、53歳でデビューした時代小説作家である。本書は、江戸中期における武家の男女の柵を描いた6篇の短編を収録した時代小説で、2016年第154回直木賞受賞作であり、67歳での直木賞受賞は史上2番目の高齢受賞である。  「ひともうらやむ」:長倉分家のそのまた分家の総領の長倉…

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青山文平の「つまをめとらば」。

★3.7  6編の短編集。 男女や夫婦の情感であったり、生き方に対する物語であったりとさまざま。作者の着想の面白さに一気読みさせる何かがある。 「ひと夏」は次男でありながら特別に別家で取り立てられたはいいが、問題の多い藩の飛地に赴任させられた若侍の処世を描いている。 飛地は幕府領のなかにぽつんと孤島のように存在する、50戸で350石、回りは3公7民だがここだけは6公4民、藩から派遣された者へ…

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鬼畜と呼ばれた侍

青山文平の「鬼はもとより」を読了した。著者は出版社勤務、フリーライターを経て、2011年に「白樫の樹の下で」で松本清張賞を受賞し、53歳でデビューした時代小説作家である。本書は「藩札」発行システムの指南役を務める一人の武士の姿を描いもので、時代小説と経済小説を融合させた謂わば時代経済小説である。  江戸の浅草山川町の裏店に住み、万年青の栽培と売買を生業としている浪人の奥脇抄一郎には、もう一つの顔…

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青山文平の「鬼はもとより」。

★4.0  国元で女誑しとして遊び呆けていた奥脇抄一郎は、女との不祥事で藩札掛に回され、新たに藩札を発行したが宝暦の飢饉で挫折してしまう。 その時の経験を生かし、江戸で藩札を発行しようという藩の相談役を生業とした。北の国、島村藩1万7千石の貧乏藩が藩の再生を賭けて藩札発行を手掛けることになる。 そこには己を鬼となし、退路を断って物事に臨む執政・梶原清明がいた。 「藩札」という新しいテーマを…