「青山文平」の日記一覧

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青山文平 の 「父がしたこと」

★3.5 老中を出せる譜代藩に於いて、筆頭家臣の家に生まれた親子と藩主の蘭方手術を交えて、華岡青洲以後の日本の麻酔手術の歩みを描く。 父の永井元重は小納戸頭取を務め子の重彰は目付の職にある。藩内には庶民に人気の蘭方医・向坂清庵(さきさかせいあん)が尚理堂という診療所を開いている。だが、藩内の文化を先取りする名主らにはまだ蛮医と見下されていた。 文化元年(1804年)華岡青洲が麻沸湯(まふ…

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全身麻酔下での難手術

 青山文平の「父がしたこと」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、譜代の小藩の藩主の疾病の手術を、蘭方の外科医に委ねたことにより起こった悲劇を描いた時代小説である。  物語の舞台は天保十三年(1842年)のとある譜代の小藩で、視点人物は…

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日本一富んだ村

 青山文平の「本売る日々」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、城下町で開業する傍ら、月に一度、在所を行商して歩く本屋を主人公とした時代小説の連作中編集である。  物語の舞台は文政年間で、主人公の松月堂平助は本屋であるが、彼が扱ってい…

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天下の名刀

 青山文平の「白樫の樹の下で」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は松本清張賞受賞作で、江戸を騒がす辻斬り事件に巻き込まれた貧乏御家人の姿を描いた時代ミステリーである。  物語の舞台は田沼意次が失脚し、松平定信が老中首座に登った寛政時代…

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青山文平 の 「本売る日々」

★3.3 「松月平助」はこの国に1軒しかない本屋である。本屋とは物之本を売る店、本といえば仏書、漢籍、歌学書、儒学書、国学書、医書などを指す。草草紙や読本は本ではない。平助は同じ本屋でも板行を行う書林を目指している。月1回、4日をかけて20余りの村々を回る。村の知識層である名主が得意先で、頼まれた本や薦めようとする本を背負って回る。 「本売る日々」大の得意先である小曽根村の名主・惣兵衛が7…

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隠し伝えられた命令

 青山文平の「やっと訪れた春に」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、藩主交代制度を廃止した分家の当主の暗殺の謎を描いた時代ミステリーである。  近習目付とは藩主に近侍し、藩の実態を報告し仕法の献策を行う重要な役目であり、本来は一つの藩には一人しかいないにだが、ある特別な事情により、物語の舞台となる橋倉藩には…

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半席

  ~~ 読書感想 ~~ 半席  青山文平  評価 ☆☆☆☆   半席って何だろう??? と、思いますよね・・(笑) 池内紀(ドイツ文学者・エッセイスト) の[レビュアー]から 直木賞受賞後第一作。 あざやかな着想、あざやかな筆さばき。 60歳をこえてデビューした人が、 ためこんだ元手で一挙に花を咲かせたぐあいだ。 時は十九世紀はじめ、いみじくも「文…

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底惚れ

   ~~ 読書感想 ~~ 底惚れ  青山文平 評価 ☆☆☆☆☆ 本書全編が「俺」という一人称で語られていて、 「俺」の内心を詳細に描写してあります。 登場人物としては、主人公の「俺」と芳と同じ奉公先 にいた下女の信、それに深川入江町の岡場所の 路地番の銀次がいます。 他には名前だけだったり、一場面だけ登場する人物も 数人いますが、物語はこの三人だけで進みます。 …

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青山文平 の やっと訪れた春に

★3.3 長沢圭史は橋倉藩の11代藩主に仕える近習目付という重要な役目に就いていた。だが高齢の67となり致仕願いを出した。近習目付とは藩主に近侍し、藩の実態を報告し仕法の献策を行う。橋倉藩には近習目付がもう1人いる。次期藩主に近侍する団藤匠である。 橋倉藩は3代藩主の時に、本家の岩杉家と初代から別れた田島岩杉家が交互に藩主を務める仕組みとなった。その結果、藩士の間で現藩主派と次期藩主派が生…

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江戸の色に染まらず

 青山文平の「底惚れ」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、連作短編集「江戸染まぬ」所収の同タイトルの短編を長編化したものである。  物語は主人公の「俺」の一人称の視点で語られる。人宿からの武家屋敷の一季奉公人の俺は、今まで度々、主家の醜聞を「中番屋」に売って金を稼いでいた。中番屋は、買った醜聞をネタに、その主…

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青山文平 の 底惚れ

★3.5 在の農村から20歳で江戸へ出てきて22年、一季奉公を繰り返してきた男の物語。 今は町家に隠居した小藩の元藩主の屋敷で下男奉公をしている男。お手付き女中の芳は子を産んで24歳で暇を出され、相模の農家へ返される。供を命じられた男は、僅かの金で国許に返される芳に同情し、中番屋(人の弱みを金にする裏の組織)に話を持ち込んで金にする話を途中で打ち明けた。だが、芳は屋敷の主をかばい男を刺して逃亡…

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かけおちる

   ~~~ 読書感想 ~~~ かけおちる  青山文平  評価 ☆☆☆☆ 江戸時代、北国の柳原藩執政の阿部重秀は 疲弊した藩財政の建て直しのため、 ある秘策を実施する。 果たしてその結果は…。 太平の世に生きる武士の在り様を描く。 窮乏する藩の興産掛を務める武士。 同じ役目で京に赴いている婿、そしてそれぞれの妻。 藩を、妻を、夫を思いやるそれぞれの想い。 この本の一番魅力的な点は…

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遠縁の女

 ~~~ 読書感想 ~~~  遠縁の女  青山文平  評価 ☆☆☆☆ 1:機織る武家/2:沼尻新田/3:遠縁の女 の3編収録。 1: 嫁ぎ先は貧しい武家の入婿の後家。 故に家に居場所はない。 夫の不出来から禄を減らされ、副業で機織りを始める 主人公。 環境の変化がこんなにも性格に影響を与えるのか。 2: 海の近い荒地を新田開発する。 不思議な女性との出会い。 防風林の松の根元にできる…

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死を覚悟した者の笑顔

 青山文平の「泳ぐ者」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は2016年に刊行された「半席」の続編で、徒目付の片岡直人を主人公とした、ホワイダニット型の時代ミステリーである。  物語の舞台は、文化年間の江戸である。一代御目見得の半席から旗本へ身上がるために勘定所を目指していた主人公で徒目付の直人は、徒目付組頭の内藤…

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青山文平 の 泳ぐ者

★3.7 「半席」の続編。時代は文化8年(1811年)片岡直人は27歳である、文化魯寇やフェートン号事件が尾を引いている。この年ゴロウニンの抑留事件も。 目付の中にも海防担当が設けられそちらへの引き抜きの話や、前作での勘定所からの引き抜きの話もぶり返すが、いずれも断り徒目付を励み場とする意志は変わらない。また、謎の浪人・沢田源内も登場し智恵を借りる場面もある。前作は6つの連作だったが、今回は連…

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閉塞した世の中を生きる

 青山文平の「江戸染まぬ」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、江戸に生きる様々な人々の人生を描いた、時代小説の短編集である。  「つぎつぎ小袖」:貧乏旗本の奥方の「わたし」は、周囲からは大雑把であると言われていたが、七歳の長女のことだけは細かく心を砕いていた。江戸で疱瘡が流行り、娘を心配したわたしは、親戚の七…

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著者別インデックス:国内(青山文平)

1.白樫の樹の下で (2011.06)   https://smcb.jp/diaries/9045348 2.かけおちる (2012.06) 3.流水浮木-最後の太刀- (2013.6) 4.約定 (2014.08) 5.鬼はもとより (2014.09)   https://smcb.jp/diaries/6247419 6.つまをめとらば (2015.07)   https://smcb.j…

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青山文平 の 江戸染まぬ

★3.4  7つの短編集。 「つぎつぎ小袖」疱瘡除けにつぎつぎ小袖を親類に頼んで回る貧乏旗本の妻女は貧窮に喘ぎながらも夫の欲しがっていた漢籍を買い与えた恋話。 「町になかったもの」紙の生産で賑わう村が発展して町となった。江戸で評判の店が出店を出すようになる。紙問屋の男が江戸で目を付けたのが書肆だった。 「剣士」厄介叔父の2人は毎日を釣りに出かけ姿を消す。60を越えどうやって命を絶つかを考え、…

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美しい躓き

 青山文平の「跳ぶ男」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、貧乏藩の道具役の息子として生まれながら、急死した藩主の身代わりを十五歳で務めることになった少年を描いた時代小説である。  本書の主人公の屋島剛は、藤戸藩二万二千石に二家ある道具役の長男だった。藤戸藩の領土の大部分は台地の上にあり、川がないために水田を作…

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青山文平 の 跳ぶ男

★3.4 藤戸藩は2万2千石の貧乏藩、大名のたしなみとされるものでは能のみにしか財を使えない。 御手役者の屋島家の長男で15歳の剛(たける)に藩の上層部から密命が持ち込まれた。16歳で急死した藩主の身代わりとなること。天保の時代、幕府の法では急養子が認められるのは17歳からで、あと7ケ月である。 剛は17歳で抹殺される危惧もありながら、旧友の夢を達成するためにこの任務を引き受けた。かくして藩…