ヴェネツィアでは もうタッソの詩句を歌い交すこともなく 歌をなくしたゴンドラ漕ぎがただ黙々と舟をこぎ 町の館が水辺にくずれおちてゆき 音楽が奏でられないこともある そういう日々は過ぎ去ったのだ それでもまだ美しさはここにある 「チャイルド・ハロルドの巡礼・第四歌」イギリスの詩人バイロンの詩、1818年。 ジュデッカ島の倉庫の周りの堤は、ティッツァーノの絵のような光に彩られている。運河と港の幾艘…

朝から曇よりした天気であったが、昼食を済ませヴェネツィア本島に入ったころからポツリポツリと降って来た。 これまで旅に出ても余り雨に当ったことはないが、晴天もあれば雨の日もあるのが自然。たとえ雨でも、その土地の普段が味わえればいいのだと思うことにしていた。 傘をさして手が塞がる不自由さと、せっかくの景色が、とちょっとは思わぬでもないが。 ローマ広場のバスプールで車を降り、小型船でサン・マルコ広場に…

今回の旅には肩にかけるバックに新書を一冊入れていた。牧野宣彦著『ゲーテ「イタリア紀行」を旅する』集英社新書で、岩波文庫三冊の『イタリア紀行』よりは嵩張らないだろうと。 ゲーテは1年10ヶ月のイタリアの旅の帰りにシエナ、フィレンツェ、ミラノを訪れているが、紀行文はローマで終っていて、これらの地については収録されていない。 ゲーテは1786年9月3日にカールスバートを発ち、ミュンへンを経由して「ブレ…