アイヌ犬(6)
私には長男の2歳下にもう一人男の子がいます。長男はコロと一緒に育ってきたので、大の仲良しです。 でも次男は小学校の低学年のころ、近所の家のシェパードに押し倒されて腹を咬まれたことがあり、それ以来、“犬恐怖症”になって、コロのそばにもまったく近寄らなくなりました。いまでも脇腹に大きな傷跡が残っています。 さらに困ったことには、実は、私の妻は大の犬嫌いなんです。犬ばかりではありません。猫や…
私には長男の2歳下にもう一人男の子がいます。長男はコロと一緒に育ってきたので、大の仲良しです。 でも次男は小学校の低学年のころ、近所の家のシェパードに押し倒されて腹を咬まれたことがあり、それ以来、“犬恐怖症”になって、コロのそばにもまったく近寄らなくなりました。いまでも脇腹に大きな傷跡が残っています。 さらに困ったことには、実は、私の妻は大の犬嫌いなんです。犬ばかりではありません。猫や…
まあ、そんなこんなで19歳まで生きたコロですが、生れたのは私の父の知り合いの家です。 その年の4月の初め、「4匹も生まれたらもらって」と頼まれたので、父が行ってそのうちの1頭をもらってきたんです。 「もう1匹持って行けや」と言われたそうですが、父は「1匹でいいべさ」と断って帰ってきました。 乳離れもそこそこの、ふわふわで真っ白な、ぬいぐるみのような赤ちゃん犬でした。 さっそく名…
毎年予防注射にやってくる永井さんという獣医は、コロを見ると「またこいつか」みたいにロコツに嫌な顔をします。 というのも、毎年痛い目に合わせる永井さんのことを「親の仇」とでも思っていたのか、コロは歯をむき出しにして「オオカミ顔」で唸ります。 そんな時は、こいつはもう狂犬病に罹ってるんじゃないかと思えるほど、結構な迫力を見せます。 まさしくヒグマに立ち向かうときのアイヌ犬の“勇姿”です…
そんな武士道精神があふれるコロでしたが、彼(オス犬です)が唯一怖がったのは、年1回の狂犬病の予防注射です。その日が近づくとだんだんと青ざめて(?)きて、私を見る目が疑い深くなります。 近くの公民館の広場で、町内一斉の注射の日があるのです。犬の飼い主たちが、めいめい愛犬を連れて公民館前に集まります。 コロはその注射がたいへん苦手(ダッキライ)でした。ちっちゃいころから、その日だけは私の言…
コロは、飼い主に自分の亡骸(なきがら)を見せるのを”恥”だと思ったのかもしれません。そんな“武士道”をわきまえたような気性のアイヌ犬だったんです。決して凶暴だったわけではありませんが、家族以外の人には警戒心が強かったようです。 コロはアイヌ犬らしく、1メートルも雪が積もる夜でも、犬小屋には入りません。土砂降りの雨の日以外は必ず外で寝るのが好きだったんです。朝、見に行くと、コロの寝ている場所…
もう30年ぐらい前になりましたが、私の家には「コロ」というごく平凡な名前の白い中型犬がいました。当時、私は北海道の海の近くの田舎に住んでいましたが、コロも私と同じ北海道産のアイヌ犬でした(私は犬ではありませんが、念のため……)。 コロは私の長男と同じ年に生まれ、一緒に育ってきましたが、長男が大学に入学した年のある日、こっそりといなくなりました。老衰でやせ細り、自然と首輪が抜けたのでしょう。…