さんが書いた連載金魚日記の日記一覧

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「急いで買うものではありません」

「すみません、この小さいのはいないですよね?」 「秋には入荷しますよ。こうした生き物は急いで買うものではありませんし」 客は店の奥に男性が一人いるだけ。いつも何人も客がいるのに。この天気のせいだろうか、小雨が降っていて涼しい。 私は水槽を一つ一つ丁寧に見て行った。一巡して、再度反対側から見て行く。やはり小さなものから育てたい。生憎そうした小さいものがなかった。中央に置かれた大きな水…

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「脱皮」

死んでいると思った。違う、抜け殻だ。水槽のこちら側に生きているヤツがいた。大きい。 足が白い。ハサミが大きくなっている。一度はなくなったハサミや足が再生し更に成長した。 一匹だけ残ったザリガニは一番弱いザリガニだった。(『弱いものが生き残る』https://smcb.jp/diaries/8674236) とても生きられそうにない弱々しい一匹が、まさかここまでになるとは。 ザリガニについ…

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「生き物を飼うのは難しい」

まただ。何故今頃になって濁るのだろう。 安心していたランチュウの水槽が白濁している。水を替えてからだ。 娘宅の水槽には底に5センチ程度黒い砂が敷いてあり、澄んだ水の中で小さな魚が泳いでいる。これをまねしてみよう。 白濁する原因はバクテリアらしい。バクテリアが住み着く砂利が必要なのだが、少ないのかもしれない。 昨日、ホームセンターで黒い砂4袋と「高濃度バクテリア」と書かれた小瓶を買って来た…

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「雨の日は金魚屋へ」

まだいる。さっきも見ていた。地味な服装をしているが横顔は素人っぽくない女性がずっと水槽を見ている。水槽の中には黒い出目金。 奥には自分で金魚を掬う男性。店内には10人程の客がいて、それぞれ自分の好きな金魚を見ている。 雨の中、新小岩にある「金魚の吉田」を目指した。娘宅から真っ直ぐ帰宅するには早い時間だった。 千葉から総武線快速で東京に向かうと、新小岩駅はそれまでの駅とは全く違う。ホームドア…

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「夏の電気代」

仕事の帰り、ランチュウと山野草に早く会いたいと思った。犬や猫を飼っている人はこんな気持ちなのだろうか。 2日続けてランチュウの水換えをした。水が白っぽくなる。最初に買った琉金の水槽と違うのは濾過器だ。 琉金は水槽の外側に取付けるタイプだが、ランチュウは中で空気がボコボコ出るタイプ。両方とも新しく買ったものだ。 バクテリアとか濾過器の問題で、水を換えてもダメらしいと分かった。濾過器を買うしか…

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「元夫」

朝起きて真っ先にランチュウの水槽を見た。底にいる。2匹とも全く動かない。 昨夜ランチュウの飼い方をスマホ様に聞いた。ランチュウは弱く、買った日の移動でかなり弱る。水槽に入れたら一日は餌をやってはならぬ。もし一日経っても動かなかったら、まだ餌はやるな。 空気を送るポンプが弱い気がした。些細な事をけちって致命傷になるのは避けたかったので、昨日帰る時ビバホームでポンプも買った。 もう一つポンプを…

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「口紅」

突然目の前にご婦人の顔があった。 「口紅付けてるわよね、これ。可愛い。」 意味が分からなかった。 「口の周りが赤いんです。」 一緒に選んでいた店員が続けて言う。小さな口が赤くて愛らしい。 「僕が選んだのもそうですよ。」 ビニール袋には既に一匹入っているが、私は何も知らなかった。 一昨日来た時に土曜日に新しいランチュウが入ると言われ、買わずに帰ったが (「今年生まれ」https://smcb…

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「今年生まれ」

「当歳ってどういう意味ですか?」 「今年生まれたって事です」 信じられない、親子程にも大きさの違う金魚が、両方とも今年生まれた? 以前来た時に琉金を買った。目指すはランチュウだが、飼い方に慣れたい。以前ランチュウを買っては何度も失敗した。素人でも飼い安い金魚を聞いたら、琉金を勧められた。 若い店員の言う通り、週に一、二度水を替えた。毎朝、帰宅した時、挨拶が日課になった。 店内はランチュ…

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「行ってきます」

「おやすみ」 金魚は絶えず動いていて、ガラス面を突付いている。新しい濾過器も大丈夫そうだ。水の中からこちらはどう見えているのだろう。 ホームセンターに水槽の水換え用ポンプを買いにいき、濾過器も買った。今度こそ失敗したくないのでスマホ様に聞いたら、水がいかに大事かが分かった。バクテリアがどうとか。高価なものでもないので濾過器を新しくすることにした。花には土が大事と同じだ。 人間とて同じで水は大…

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「自粛生活の限界」

信じられなかった。いない。 水の中に手を入れ、隠れ家にしていた素焼きの鉢をどけてみた。ポンプの裏側も見た。水槽の周りも見た。 玄関を見た。シューズをどけた。サンダルもどけた。 もう一度水の中を見た。気持ち悪くなった。朝は確かにいたヤツが消えたのだ。 水槽にはヤツ一匹しかいないから、共食いはない。もう一匹いた仲間を喰ったのはヤツだ。 玄関の隣は私が寝ている和室だ。部屋の戸はいつも開けてい…