饗庭孝男著「ヨーロッパ古寺巡礼」新潮社

《ロマネスク教会や修道院というものは不思議な魅力を持っている。それをつまびらかにすることはむつかしいが、こういう風に言えるかと思う。つまり、12世紀の「信仰」が〈自然〉と見事に調和し、素朴なかたちであらわれているからだと。(略)山麓の麦畑や丘の間にある小さな村々、急な斜面により添うような村のまん中にある教会、あるいは人里はなれた霧に包まれた森の奥、しずかな川のほとり、泉の傍らにあり、あるいは山の頂き近くにひっそりと立っている修道院は長い歳月を経て風景の一部分となり、リルケの喩えによって言えば、沈黙のうちに、宇宙の承認をえて〈自然〉と調和しながら息づいてい