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よくあるご質問

ギリシャでは寝転んで宴会をした

丸谷才一著『双六で東海道』文春文庫、12月の新刊。
 古今・洋の東西の事柄を、博聞・博識を披露しながら楽しく語る、碩学・博学の丸谷先生のエッセイ。
 演劇評論家の渡辺保さんは巻末の解説で、「このエッセイ集は、盃を傾けながらでも紫煙をくゆらせながらでもいいが、楽しむのが第一」。エッセイの真髄というものが鮮明になっているからだろうと。そしてその真髄とは、次の五つ。
? ユーモア。相対的・複眼的な視点をもち、時には自分を戯画化するだけの余裕から生まれるユーモア。
? 上品で洒落ていること。この本にも相当下世話なきわどい色事の話も出てくる。それが少しも不快でないのは書き手が上品で洒落ているから。
? 文章がいい。例えばこんな調子。
 「まあ、いいぢやないですか。わたしの文章なんか読んでる所を見るとお暇でせう。つきあつてよ」(原文どおり)。
? 話題が次から次へ飛ぶこと。該博な知識が蝶々のように飛び交い、知的好奇心を起こされるような刺戟を受ける。
? 落ちがきいていること。文末まで来て、読者はフッと日常に戻ると同時に軽妙洒脱の感を深める。

 「ほら、ほら、あの・・・」では、何かを忘れて思い出せない、もどかしい想い。その感覚を日本語では「のどまででかかってる」という。これを英語では “on the tip of one’s tongue”(舌の先まで出かかってる)と言うのだそうで、東西軌を一にしている。
 堀口大学や中村歌右衛門などについての本を書いている関容子さんは、老人に対するインタビューのコツは、人名が思ひ出せないときは早く助太刀すること(時間の節約)。形容詞や動詞、比喩的表現が思ひ浮かばなく思案しているときは、横合いから口出ししないこと。思ひもかけない古風な言ひまはしが出てくるものだから。

 「宴会の研究」では、ギリシャ(ローマも同様)の宴会は、客人は奴隷に足を洗ってもらひ、頭に花冠をのせ、寝椅子(背もたれのない幅の広いソファで2〜3人が)に横になる。食卓が真中にあり、その周りに寝椅子を幾つか並べ、椅子ごとに小卓を置き料理を取り分けた。混酒器から長い柄杓で酒を酌み、お客の杯をいつも一杯にするようにしていた。
 プラトンの『饗宴』を読むと、ワインの冷やし鉢が出てくるしワインを薄めて飲んでいたことが解る。クセノポンは宴会が果ててから帰る客に、馬の配慮をしたとか。

日本史の勉強も出来る。江戸時代に6回の改革があった。
? 保科正之の寛文の改革。諸大名から人質制度の廃止、殉死の禁止、枡や通貨の統一。
? 堀田正俊の天和の改革。代官の服務規定を定め、女の衣装の贅沢の禁止。
? 松平乗邑の(徳川吉宗といった方がいいか)享保の改革。法の整備、行政機構の改革、年貢の増徴および新田開発、都市の火災対策、米価対策など。
? 松平定信の寛政の改革。農業人口の回復増加と耕地面積の復旧増大、旗本の困窮を救うため札差の債権118万両をナシにした(札差こそいい迷惑)。寛政異学の禁。
? 水野忠邦の天保の改革。綱紀粛正、倹約励行、風俗是正の三大方針。都市の衰退をもたらす。女髪結いの禁止、玄関や長押を備えた家作りもダメ。芝居小屋も江戸のはずれに引っ越させ、200箇所の寄席を14箇所に。これぢや怨まれるのも当たり前。
? 松平春獄の文久の改革。井伊直弼が殺された結果、幕府は徳川慶喜、松平慶永(春獄のこと)を赦し、朝廷と薩摩藩の希望を入れて、前者を将軍後見職に、後者を政事総裁職にした(政変とも言うべき)。参勤交替制の緩和は大きい。

 「男女の仲」では、フォークが使われるようになったのは16世紀から17世紀にかけて、それまで王様だって手づかみで食べていた。ルイ14世は18世紀になっても、モンテーニュはもちろん手づかみ、彼は腹がすいたときには指を噛むことがあった、とレイモン・オリヴィエの『フランス食卓史』にあるという。

 博覧強記、とにかく何が出てくるか分らない面白さ、ためになる話、そしてちょっぴりエッチで、クスリとほくそ笑んでしまう品のよい艶笑譚もあるが、ここでは避けた。

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