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よくあるご質問

チェコの思い出と本の散策

昨日は、先日友にもらったアロイス・イラーセク著・浦井康男訳・註解『チェコの伝説と歴史』北海道大学出版会刊を一日かけて読んだ。A5版よりやや大きい菊版の580頁の970gもある本で、手に持っては読んでおられず、腹の上に載せて頁を手繰った。
 チェコの伝説に始まり、大モラヴィア国とスラブ世界へのキリスト教の伝教、中世チェコの民衆文学、カレル四世とプラハにまつわる諸伝説、ヤン・ジシェカとフス派戦争、白山の戦い以降の弾圧と亡命、そして18世紀初頭のスロヴァキアのヤノーシークの反乱までを扱い、最後にチェコ民族の黙示録とも言うべき予言を集めた、文字通りチェコの歴史小百科の様相を呈している。註釈部が160頁もあり、本文にたくさんの挿絵が挿入されているがチェコの著名な画家の絵だそうで、その迫力もすごい。
 ヤン・ネポムツキーのところでは、こんな話が語られている。
 《日本ではイエズス会は、ヨーロッパ文明の紹介者という理知的で明るいイメージで一般に知られているが、ヨーロッパでのイエズス会は反宗教改革の先兵であり、「頑迷で陰険で恐ろしいもの」として知られている》。《彼らは16世紀の中頃からチェコに進出していたが、これまで同胞が育ててきたチェコの文化を抹殺して行った。再カトリック化を推し進める中でヤン・フスとヤン・ジシュカは地獄をさまよう亡者とされ、その記憶を消すために第三のヤンをつくった。
 それはヴァーツラフ四世の時代の、ヤン・ネポムツキーであった。彼はプラハ大司教代理として、ヴァーツラフと大司教の争いに加わり、そのためヴァーツラフの怒りに触れて拷問にかけられ、カレル橋からヴルタヴァ川に投げ込まれて殺された。この出来事に後代のカトリックは次のような話を付け加えた》。
 《ネポムツキーはヴァーツラフの王妃ジョフィエの懺悔聴聞僧であったが、ある時ヴァーツラフは、王妃に愛人(噂では弟のジクムント)がいるのではないかと疑ったという。そこでネポムツキーに王妃の懺悔の内容を話すように命じた。しかし、ネポムツキーは沈黙を守り通し、拷問にも屈しなかった。それを怒って、彼を川に投げ込み溺死させた。人々は彼のなきがらを埋葬したが、後に彼の墓を開いてみると、頭蓋骨の中で舌だけが腐らないで残っていたという》。P414.
 石川達夫著『黄金のプラハ』平凡社刊、にはそれは真実ではないと書かれている。
 《プラハ大司教イェンシュテインとヴァーツラフ王が、幾つかの事件で対立し争っていた。そして1393年3月20日、二人の会合がプラハの修道院で行われたが、朝から酔っていたらしい国王は逆上し、大司教とボムクのヤンを含む大司教の役人たちを捕らえるよう命じ、突然の混乱の中で大司教は逃げおおせたが、役人たちは投獄された。国王は彼らから大司教の企みを聞きだそうとし、刑吏を呼んで拷問にかけ、自らも拷問を行ったという。
 しかし、国王は次第に冷静さを取り戻して、囚人を解放するように命じた。だが、ボムクのヤンは拷問台から下ろされたときには既に意識がなく、間もなく息途絶えてしまった。
 このようにボムクのヤンは聴聞司祭ではなくて、実直な法律家であった。王が知りたかったのは、王妃の秘密ではなくて、大司教の政治的計画であった》と。
 伝説では、ネポムツキーが水中に消えていったとき、そこに五つの星が現われて水面に輝いたという。それから天が開いて、そこから神の祝福を示す棕櫚の枝を持った天使たちが降りてきたのだと。

 2007年10月に中欧を旅して、このヤン・ネポムツキーの話を知った。橋の上の像の台座にはレリーフも付けられているが、右側は橋から投げ落とされるネポムツキー(写真)、左にはネポムツキーに告解する王妃と残酷なヴァーツラフ四世とその猟犬が彫られている。

 持田鋼一郎著『エステルゴムの春風(東欧の街と人)』新潮社刊、の「プラハのカフェにて」を覗いてみた。
 1968年の「プラハの春」の翌年,カレル大学の学生ヤン・パラハが遺書を残しソ連軍戦車のチェコ侵入に抗議して焼身自殺した。民衆の感情を端的に表現したアネクドート。
 《亡命生活をしていた老人がプラハに帰ってきて、キオスクに行き、共産党の機関紙『赤い真実』を一部くれないかと言う。店の老婦人が「あなたはどこにいたの?15年前から出ていないのよ」という。
 男は礼を言って立ち去る。
 15分後、男がまたやってきて同じことを訊く。
 老婦人は辛抱強くもう一度説明する。
 男は礼を言って立ち去る。
 それからまた15分後。
 男は同じ事を。
 今度は老婦人はカンカンに怒ってまくし立てる。
 男は微笑んで言う。
 「いや、分っている、分っている。ただ、わしはあんたが『赤い真実』は15年前から出ていないと言うのを聞くのが嬉しくてしようがないんだ」》。

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