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よくあるご質問

ともに試練を越えて

沢木耕太郎著『旅する力』新潮文庫を読了。「深夜特急ノート」とあるように『深夜特急1〜6』の誕生秘話が綴られる。
 「旅とは何か」。冒頭に大槻文彦の『大言海』の定義を引用している。《家ヲ出デテ、遠キニ行キ、途中ニアルコト》、このプロセスを重視することから「旅と人生」が一緒だと思うのだろう。もう日が経ってしまったので、本の話ではなく昨日見たテレビの話を。

 1日夜のNHK教育テレビ、ETV特集「試練と向き合う 浅野史郎・村木厚子」だった。
 先月の19日、かつての職場の後任者から「浅野さんの写真持っていませんか」という電話があった。NHKからのリクエストだそうで、やっと探して2枚届けたことを思い出した。
 浅野さんは昭和60年4月から2年半、北海道庁の民生部福祉課長として出向していた時代のその後半に、仕事上接点があってお付き合いさせていただいた。道庁から厚生省児童家庭局障害福祉課長に戻られ、その2年後、ぶどう社から『豊かな福祉社会への助走』という本を出された。その東京での出版パーティーに出席した折、北海道の障害福祉関係者から北海道でも、という話が持ち上がって、それをセットしたのだが300人ほど集まっていただいた。
 その当日の浅野さんの挨拶と、車椅子の女性から腰をかがめて花束を受けられた写真が画面に映し出された。司会をしていた私の首から下が見えたが、それはどうでもいい。

 浅野さんは2009年5月26日に「成人T細胞白血病」という難病で平均余命は1年だと告知を受け、HTLV-1ウィルス(母乳から感染し60年の潜伏期間)と闘っていた。
 一方、村木厚子さんは2009年6月14日、身に覚えのない事情聴取を受けて即日逮捕され、5ヶ月間の拘置所生活を強いられ、移動の時は手錠・腰縄の屈辱を受けていた。
 お二人は厚生省の障害福祉課長、労働省の障害者雇用対策課長として20年前からお付き合いがあったという。
 テレビでは村木さんが横浜の浅野家を訪ねるところから二人の対談が始まったが、2年ぶりの再会に浅野さんは出迎えた玄関で涙を浮かべた。
 ともにチャレンジド「神が試練を与えし者」としか言いようのない、同じ時期に言い知れぬ苦悩を味わっていた。
 取調べでは全く話の違う調書が作られ、さすがに泣いて抗議した村木さん。
 プライドや人としてギリギリの尊厳を傷つけられ、さらに連日、検事の流す情報をただ垂れ流して、なんと悪い役人なのだと思わせるような報道が続いていた。
 そんな中で7月9日、村木さんの無罪を訴え、支援する会の声明文が出され、そこに浅野さんの名もあった。
 白血球数も下がって無菌室に入るときであった。
 メールで「諦めるな。正義は必ず勝つ」と打った。
 それは浅野さんの自らへのメッセージでもあった。
 村木さんが勝ったら、自分も生きて帰ってこられるのだと。
 村木さんはそうした人々の声に励まされたという。
 『花さき山』という斉藤隆介作、滝平二郎絵の絵本を送ってくれた人がいた。
 「自分のことよりも人のことを思うやさしさが、美しい花をさかせる」と。我が子にも他の人にも何もしてあげられない立場に置かれて沈んでいた気持ちに、本を差し入れ手紙を下さる人に手紙を書こうと思えるようになり、能動的になれた。
 拘置所の女性職員は自殺を心配し、「泣いているときではないでしょう。検事さんと戦うのでしょう」と励ましてくれた。職員はよく人を見ていて気がつき、その人に合った接し方など、よくトレーニングされていると感じた。大阪拘置所は古くて汚く冷暖房がなく、しかしこうした入所施設の良し悪しを決めるのは、最後は職員の質や力量と食事だと思い至った。
 浅野さんは骨髄移植を受けて助かった。直接、命を戴いたと思う。制度上、何処のどなたとは分らないが、名の分らないドナーさんに手紙を書いた。(2度まで許されている)。
 白血病と無実の罪、ともに過酷な試練を越えて語り合うお二人であった。
 サラ・バレツキーの『サマータイム・ブルース』と言う本を差し入れてくれた人がいて、【あなたが何をしたって、あるいはあなたに何の罪もなくたって、生きていれば、多くのことが降りかかってくるわ。だけど、それらの出来事をどういうかたちで人生の一部に加えるかは、あなたが決めること】山本やよい訳、を引用して、ともに降って湧いた試練をこれからの人生に生かすことを考えておられた。
 浅野さんは抗がん剤のせいで血糖値が上がり、食事前にインシュリンを打ちながらの生活。10日からの慶応義塾大学教授としての講義に備えておられた。
 浅野さんの日記を楽しみにしている隠れたファンでもある。

 http://www.asanoshiro.org/jogdiary/index.htm
 http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/new.html

カテゴリ:ニュース・その他

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