北アルプスの麓にて

夏川草介の「神様のカルテ」を読了した。著者は、長野県の病院で地域医療に従事する医師で、本書により第10回小学館文庫小説賞を受賞し、作家としてデビューしている。
 本書の主人公栗原一止は、夏目漱石の「草枕」をこよなく愛する内科医である。彼の勤務先で信州松本にある本庄病院が、365日24時間の診療を謳い文句にしているため、本来専門ではない救急医も兼ねており、時には数日間帰宅できないこともある毎日を過ごしている。
 第一話「満天の星」:あまりの多忙さに結婚記念日を忘れてしまった一止が、自宅である襤褸アパートの御嶽荘に戻ってみると、妻で山岳写真家の榛名(ハルさん