あるサイコパスの人生

貫井徳郎の「微笑む人」を読了した。著者は、重厚な作風で知られるミステリー作家である。本書は、意外な理由で妻子を殺害したエリート銀行員の真実に迫ろうとする、とある小説家の取材記録の形式で書かれたミステリーである。
 銀行員仁藤俊実の妻翔子と娘亜美菜は川遊びで溺れ、救急隊員が到着した時には、既に心肺停止状態であり、夫の俊実も救助のためか、全身ずぶ濡れであった。事件は事故と判断されたのだが、葬祭場が混んでいるため、火葬が遅れると知った時、いつも穏やかに微笑んでいた仁藤が激高したのが奇異な感じを与えた。
 しかし、その事件は事故ではなく、殺人であった。仁藤が翔子