一両二分のお茶漬け

 松井今朝子の「料理通異聞」を読了した。著者は直木賞作家で、小説家としては時代小説をテリトリーとしているが、脚本家、演出家、評論家としての側面も持っている。本書は、江戸時代に名料亭「八百善」を造り上げた福田屋善四郎の生涯を描いたものである。
 物語は天明2年(1782年)に始まる。主人公の善四郎は、その前身は八百屋であるため、精進料理が売り物の、浅草新鳥越町の仕出し屋福田屋の息子である。しかし、実の親はお金御用商の水野屋平八であり、元服した善四郎は水野屋で働く。その水野屋に、貧乏旗本内藤采女正の娘千満が時々顔を見せて、金を無心して行く。ある日、屋敷まで千