平蔵と重蔵

 逢坂剛の「闇の平蔵」を読了した。著者は直木賞作家であり、もともとミステリー出身であるが、最近は時代小説を手掛けろことも多い。本書は、火付盗賊改方長官長谷川平蔵、すなわち、鬼平を主人公とした逢坂版「鬼平犯科帳」の第三作で、6篇からなる連続短編時代小説集である。
 「飛鳥山」:平蔵が手先のりんを連れて市中見回りに出た際、八辻ケ原で仇討ち騒ぎに遭遇する。仇持ちは美青年の若侍小川新三郎で、父の敵西上伊賀之助と名指しされた男は、最初は人違いと抗弁していたが、自身が伊賀之助であることを認める。しかし、伊賀之助の申し出により、仇討ちの場は翌夕、王子の飛鳥山に持ち越さ