本を取り巻く迷宮

 夏川草介の「本を守ろうとする猫の話」を読了した。著者は長野県で地域医療に従事する現役の医師であるが、第10回小学館文庫小説賞を受賞した「神様のカルテ」で作家としてもデビューしている。本書では、古書店を営んでいた祖父を突然失った高校生が、突然現れた人語を解するトラネコに導かれ、危機に陥っていた本を救う物語が描かれる。
 物語の主人公の夏木林太郎は、背が低めで眼鏡をかけており、運動神経がなく、成績もそれ程良くない普通の高校生である。林太郎は、幼い時に両親が離婚し、母親も若い内に亡くなったため、夏木書店という極めて良心的な古書店を経営している祖父とともに暮ら