日本人諜報員との秘められた恋

 芦辺拓の「楽譜と旅する男」を読了した。著者はいわゆる新本格派のミステリー作家である。本書は、古今東西の散逸した楽譜を探し歩く楽譜探索人の探索の成果を描いた連作短編集である。
 「曾祖叔母オパールの物語」:100歳を目前にしたオパール・コートランドは、ロンドン近郊のベッケナムにある広い敷地に立つジョージアン様式の広壮な邸に住んでいる。彼女は生涯独身で、両親が亡くなってからは、使用人を除き、一人でその邸に住み続けているが、彼女の邸には何か秘密が隠されているとの噂がある。そして、彼女の邸には、彼女の遺産相続が気になる人々が、時々集まって来る。ある日、80歳に