紙の面の呪い

 宮部みゆきの「この世の春(上、下)」を読了した。著者は直木賞作家で、ミステリー、時代小説、ファンタジー等、レパートリーの広い作家である。本書は基本的には時代小説なのだが、「サイコ&ミステリー」作品でもある。
 物語は、宝永7年(1710年)、六代将軍徳川家宣の時代の下野北見藩二万石で始まる。名君と謳われた第五代藩主北見成興の嫡男で、英邁と美貌を誉めそやされていた第六代藩主の北見重興が26歳の若さで突然隠居し、従弟の北見尚正が新藩主となるが、重興の隠居は実は、藩の重臣達による押込だった。重興は藩政を、郷士から取り立てた御用人頭の伊東成孝に任せていたが、権