アイヌとしての誇り

 馳星周の「神(カムイ)の涙」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家であるが、本書は、自らのルーツを探すためにアイヌの木彫り作家に弟子入りした青年の苦悩を描いた物語である。
 古ぼけた四駆に乗った尾崎雅比古は、道東の弟子屈町川湯温泉に住むアイヌの木彫り作家平野敬蔵の家を訪れるが、敬蔵は山に入っていたため留守であった。雅比古は、居合わせた孫の平野悠に伝言を残して立ち去る。中学生の悠は、自分がアイヌであることを嫌い、遠隔地の高校に進学しようとしており、その費用捻出のために敬蔵は、今まで行わなかった個展を開き、木彫りの作品を売り出すことを決意して