「馳星周」の日記一覧

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皇帝への道

 馳星周の「北辰の門」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原不比等を描いた「比ぶ者なき」、藤原四兄弟と長屋王の壮絶な権力争いを描いた「四神の旗」の続編で、皇帝を目指した藤原仲麻呂(恵美押勝)の半生を描いた歴史ノワールである。  藤原仲麻呂は藤原南家の祖である藤原武智麻呂の次男として生まれる。しかし、天平九年(737年)、天然痘の流行により武智麻呂を始めとする藤原…

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バイアリータークの血統

 馳星周の「ロスト・イン・ザ・ターフ」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や、犬等の動物をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、競馬を愛する中年の男女達が、とある馬を種牡馬として残そうと考えたことに始まるドタバタを描いた、少しサスペンス風味も加味したラブコメディである。  三十代の倉本葵は、代々木で亡くなった兄の聡…

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狼男だよ

 馳星周の「月の王」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や、犬等の動物をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、太平洋戦争前夜の魔都上海で、駆け落ちした日本の家族令嬢を巡る日中の特務機関と、狼、龍、熊の化身達の争いを描いた、一種の伝奇小説である。  物語の舞台は1930年代の上海である。帝国陸軍特務機関所属の伊那雄一郎…

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黄金の永遠の輝き

 馳星周の「黄金旅程-EgonUrrea-」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や、犬等の動物をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、超一流の素質を持ちながら、猛獣と呼ばれるほどに気の荒い性質のサラブレッドのエゴンウレアを巡る、競走馬の世界に生きる人々の姿を描いたエンターテインメント作品である。  本書の主人公は、北…

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著者別インデックス:国内(馳星周)

1.不夜城-不夜城 1- (1996.08) 2.鎮魂歌(レクイエム)-不夜城 2- (1997.08) 3.バンドーに訊け! (1997.08) 4.夜光虫 (1998.08) 5.漂流街 (1998.09) 6.M (1999.11) 7.虚の王 (2000.03) 8.古惑仔(チンピラ) (2000.07) 9.雪月夜 (2000.10) 10.うちの秘蔵っ子 (2001.06) 11.マ…

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日記106 少年と犬/馳星周

 馳星周著「少年と犬」(2020年5月文藝春秋刊)読了。  内容(「BOOK」データベースより) 家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった―男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す―泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた―夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった―娼婦と犬。老猟師の死…

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四神に護られた女

 馳星周の「四神の旗」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原不比等を描いた「比ぶ者なき」の続編であり、不比等の息子である藤原四兄弟(武智麻呂、房前、宇合、麻呂)と皇族である長屋王の壮絶な権力争いを描いた歴史ノワールである。なお、タイトルの「四神」とは青龍、白虎、朱雀、玄武のことであるが、ここでは安宿媛(光明子、後の光明皇后)を護る藤原四兄弟を意味する。  物語は…

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その犬の歩むところ

 馳星周の「少年と犬」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や犬をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、2020年第163回直木賞受賞作であり、東北大震災の被災地から九州に向かう犬を描いた連作短編集である。本書の主人公(主人犬?)は、東北大震災の時に釜石で飼われていた多聞という名前の、シェパードと和犬の雑種犬である。震…

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公安警察の笑うべき闇

 馳星周の「殺しの許可証(ライセンス)-アンタッチャブル 2」を読了した。著者は、現在の日本を代表するロマン・ノワール(暗黒小説)作家の一人であるが、最近は山岳小説等、異なったジャンルの作品も増えている。本書は公安警察の活動をパロディ化したノワール・コメディである。  本書の主人公は警視庁の宮澤武巡査部長である。宮澤は刑事部捜査一課の刑事だったが、逃走する犯人を私用車で追跡中に事故を起こし、歩行…

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雑読散歩 ―時空を超えて奈良へ・「比ぶ者なき」―

まだ明けぬ梅雨の中、久しぶりに奈良を訪れた。といってもわが身を新幹線や夜行バスで運んだわけではない。活字の中をしかも時空を超えて訪れてきた。 持統3年(689)飛鳥浄御原宮の一室。案内人は初めてお目にかかった馳星周さん。私より20歳ほど若い小説家。聞くところによると新宿の歌舞伎町を舞台に日中混血の男女が中国マフィアの抗争に巻き込まれるという内容の「不夜城」で一躍脚光を浴びたそうだ。「そうだ」と…

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好きだけど嫌いな街

 馳星周の「ゴールデン街コーリング」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家であるが、最近は山岳小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、著者が大学生時代にアルバイトをして青春を過ごした、新宿ゴールデン街での生活をモチーフとした自伝的青春小説である。  物語の舞台は、1980年代の初期の新宿である。北海道の日高地方出身の坂本俊彦は、横浜の某公立大学に入学してすぐに、コメディ…

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残雪の後立山連峰

 馳星周の「蒼き山嶺」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家であるが、最近は山岳小説等、異なったジャンルの作品が増えている様である。本書は、刺客に追われる公安刑事が、かつて大学の山岳部で一緒だった山岳ガイドとともに、残雪期の後立山連峰を縦走する姿を描いた山岳冒険小説である。  元長野県警山岳遭難救助隊員の得丸志郎は、交番勤務をを命じられた時に迷わず辞表を書き、白馬村観光課の顧問を勤…

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アイヌとしての誇り

 馳星周の「神(カムイ)の涙」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家であるが、本書は、自らのルーツを探すためにアイヌの木彫り作家に弟子入りした青年の苦悩を描いた物語である。  古ぼけた四駆に乗った尾崎雅比古は、道東の弟子屈町川湯温泉に住むアイヌの木彫り作家平野敬蔵の家を訪れるが、敬蔵は山に入っていたため留守であった。雅比古は、居合わせた孫の平野悠に伝言を残して立ち去る。中学生の悠は…

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久々のノワール

 馳星周の「暗手」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は「夜光虫」の続編で、イタリアに渡った加倉昭彦を主人公としたノワール小説である。  殺人を重ねたために居場所をなくして台湾を捨てた加倉昭彦は、顔と名前を変え、イタリアのミラノで何でも屋として暮らしていた。加倉は、殺人以外はどんなに汚い仕事でも請け負うため、黒社会では、暗闇から伸びてくる手を意味する「暗手(アンショウ…

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天皇制の神話を創った男

 馳星周の「比ぶ者なき」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原家の繁栄の基礎を築いた藤原不比等の、己を神に近付けようとした陰謀を描いた歴史小説である。なお、タイトルの「比(なら)ぶ者なき」とは、「等しく比ぶ者なき」であり、不比等を意味する。  物語は、持統3年(689年)、天武天皇と持統天皇の間に生まれた草壁皇子の葬儀の場面から始まる。天武天皇の皇后の鸕野讚良(…

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馳星周(はせせいしゅう)の「比(なら)ぶ者なき」。

★3.5 藤原不比等の生涯を描く物語、「等しく比(なら)ぶ者なき」と読ませる。 物語は草壁皇子が亡くなるところから始まる。壬申の乱後には天智系に仕えた藤原(中臣)氏一族は冷遇されていたが、草壁に仕えていた不比等は世に出る機会を狙っていた。 持統女帝の軽(かる)、更には首(おびと)と続く直径子孫を玉座に就けようとする執念に便乗した不比等。 律令の制定、記紀神話の創作などによって、それまでの兄…

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神の住む山

 馳星周の「神奈備」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家であるが、本書は荒天の御嶽山頂で神を探す少年と、その少年を救助しようとする強力の物語である。  本書の主人公は、木曽の御嶽の麓の町に住む17歳の芹沢潤である。潤の母親の恭子は、その町で飲み屋を営んでいるが、身持ちが極めて悪く、相手構わず体を開くため、潤の父親も不明である。自転車が唯一の趣味である潤は、自転車競技部のある高校か…

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お笑い公安警察

馳星周の「アンタッチャブル」を読了した。著者は、現在の日本を代表するロマン・ノワール(暗黒小説)作家の一人であるが、本書は公安警察の活動をパロディ化したエンターテインメント作品である。  本書の主人公は警視庁の宮澤武巡査部長である。宮澤は刑事部捜査一課の刑事だったが、逃走する犯人を私用車で追跡中に事故を起こし、歩行者を植物人間にした上、その犯人が誤認であるという大失策をしたため、公安部外事三課に…