彷徨える魂

 佐藤正午の「月の満ち欠け」を読了した。著者はミステリー畑出身の作家である。本書は、月の様に死んでは生まれ変わることを繰り返す女性「瑠璃」の魂の彷徨を描いた物語で、2017年第157回直木賞受賞作である。
 物語は青森県の八戸市から上京した小山内堅が、亡くなった娘の瑠璃の親友で人気女優の緑坂ゆいと、彼女の娘で7歳の緑坂るりに会う場面から始まる。小山内は緑坂母娘と会う席に、瑠璃が描いた絵を持って来ていた。その場には本来、三角哲彦という人物も立ち会う筈であったが、大手建設会社の総務部長で多忙な三角は遅れて来ていない。小山内はるりの思わせぶりな目付きと物の言い