ある尊厳死

 妻が尊厳死協会に入った。勧めたのはわたしだが、わたしはまだ入会していない。尊厳死という「死に方」についての自分の考えがまだ定まらないからである。

 わたしが尊厳死という言葉に強く関心を持ったのは吉村昭さんの死がきっかけであった。

 徹底した実地取材と史実に基づいた創作姿勢を貫かれた作家である吉村昭さんは、みずからの死を自宅で迎えることを選び、延命的な治療を拒まれた。死の間際まで自作の推敲を重ねられていた氏は、最期の日、もはやこれまでと覚悟したかのように、点滴のチューブを引き抜き、首の静脈に埋め込まれていたカテーテルサポートも引き抜いて、かたわらで看