「疾走するスポーツカー」ピアノ演奏家についてのひとりごと

 ホロヴィッツはかつて吉田秀和さんに「ひびの入った骨とう品」と評された。1983年の初来日時のNHKホールにおける演奏に多くの著名人が賛辞を送ったなかで、吉田さんのこの評は物議をかもしたそうである。

 ホロヴィッツのどこをどのように聴いても酔うことのできないぼくには、しごく当然な批評に思えたが、どうも世間ではそうではなかったらしい。世界的に認められた演奏家だから素晴らしいとか、あの高名なピアノ演奏家にたいしてなんということを言う、とか。

 わたしはグレン・グールドの演奏を「疾走するスポーツカー」と評した吉田さんが大好きです。バッハの『ゴールドベルグ変