祖父の背広

祖父が亡くなって数日すぎた、ある昼下がりのことでした。玄関前で釘打ちをして遊んでいた私の耳元に母の悲鳴がとびこんできました。

靴を履いたまま、あがりかまちを跳びこえ、奥の部屋へ走りました。母は祖父の茶色の背広を膝の上で握りしめ、嗚咽していました。

しばらくして、泣くのをやめた母は、背広の内ポケットに入っていた紙幣の束をつかみだし、私に見せました。百円札も何枚か混じっていましたが、ほとんどが千円札でした。そのうちの何枚かが母の手からはじけて、ひらひらと畳の上に落ちていきました。それはちょうど千円札の「空飛ぶ絨毯」のようでした。

祖父が遺したそのお金で