掌編小説の愉しみ

 長岡弘樹の「道具箱はささやく」を読了した。著者はミステリー作家で、短編の名手と言われている。本書は、18篇からなる短編集であるが、各篇とも原稿用紙20枚の作品であり、掌編小説と呼ぶべきものである。
 「声探偵」:刑事の南谷は同僚の北山とともに、小学生誘拐事件の容疑者の伊形の部屋を見張っていたが、外出した伊形が突然走り出し、近所のホテルで開かれていた放送関係者のパーティーに紛れ込んでしまう。
 「リバーシブルな秋休み」:私は克昭と離婚して五歳の娘の麻未と暮らしているが、多忙なこともあり、娘にリバーシブルの服を着せることが多い。麻未は幼稚園から帰宅した後、