雑誌編集長の苦悩

 塩田武士の「騙し絵の牙」を読了した。著者は小説家で、2010年に「盤上のアルファ」で小説現代長編新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、近年市場規模が減少し、危機的状況を迎えている出版業界の現状を描いた社会派小説であり、2018年本屋大賞ノミネート作である。
 本書の主人公は、大手出版社の薫風社で、四十歳代でカルチャー誌「トリニティ」の編集長を務める速水輝也である。速水は優れたユーモアセンスとコミュニケーション能力の持ち主であり、「天性の人たらし」と言われている。周囲の緊張をほぐす笑顔を持ち、二階堂大作を初めとする大物作家の信頼も厚く、部下の編集