「血脈」(上) 佐藤愛子著 文芸春秋
平成13年1月10日発行
ー「この詩がどうしていいかというとね、この人の切実な気持ちから出たものだからだよ」八郎はイマオにいった。
(八郎は萩原朔太郎の処女詩集「月に吠える」を読み)
たとえ他人の目にはどう映ろうとも、洽六は常に彼自身の真実に向かって進んでいるつもりだった。
彼を引きずる欲望や情念の分、彼は清浄なものへの強い憧れを持っていたのだ。その思いを彼は真剣に情熱的に、小説の主人公に仮託したのである。
大正12年11月5日,女児を産んだ。生まれた子は愛子と名づけられた。
ともあれこの末娘の誕生によっ